綿矢りさ『勝手にふるえてろ』

1. 要約
 主人公の女性は中学校の同級生「イチ」に対する恋心を忘れられないでいた。一方彼女には同僚の「二」が言い寄ってくる。「イチ」への想いを断ち切れないまま、「ニ」と不明瞭な関係を続ける。あるとき、「イチ」が自分と同じく上京していることをしり、中学校の同窓会を開く。そこで「イチ」と再会し、ますます恋心は募っていく。ちょうど上京した仲間たちで集まることになった。しかし、そこでは彼女は仲間たちに忘れられた存在のようになっていた。「イチ」からは名前すら忘れられていた。そして彼女は、傷ついた心のまま会社に妊娠という仮病で休むことを願う。恋人関係になっていた「ニ」に自分の秘密を語り、彼に縋っていく?。

2. 意味論
 ルーマンによれば、社会システムとコミュニケーションシステムは相互浸透をなす。これによりお互いに閉じられたシステムでありながら、相互作用して影響力を残していく。その際、システムを働かせていくのは意味という媒体であり、それには二重のコードが成立している。

3. 考察
 この物語の主人公は【勝ち/負け】、【恋愛/非存在】というようなコードでコミュニケーションを行っていたように思える。つまり、何事も自分自身で他者より優位に立つか、それとも勝ることはできないなら、自然のままに服従するというシステムである。それはイチとニでのコミュニケーションで明白であった。決して自分に振り向いてくれないイチと、それを補うためのニ。やがてイチとのコミュニケーションが切断されると、そこに二重コードは見られなくなり、【ニ/非存在】というような、新たな勝敗のコードが生まれた。つまり、彼女の中にあったのは、しかも生活の中まで根付いていたのは【イチ/ニ】というコードであった。彼女は自分の存在を証明するために、ニに精神的にも肉体的にも接近するにあたって象徴的な言葉があった。「イチなんて、勝手にふるえてろ」。

参考文献
綿矢りさ(2012)『勝手にふるえてろ』文藝春秋

高橋徹(2002)『意味の歴史社会学』世界思想社会

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